集合論(10) 写像(4)

逆像についての命題をいくつか証明していきます。
今回、全ての命題の前提条件として\(f:A\rightarrow B\)の存在を仮定します。

\(A=f^{-1}(B)\)

もしも\(f(A)=B\)を証明しようと思ったら\(f:A\rightarrow B\)が全射であるという条件が必要ですが、逆像で引き戻した\(A=f^{-1}(B)\)なら\(f:A\rightarrow B\)が写像であれば成立します。

証明

集合で”\(A=f^{-1}(B)\)”を示すためには、\([A\subset f^{-1}(B)] \land [f^{-1}(B)\subset A]\)を示す必要があります。それぞれ示していきます。

\(A\subset f^{-1}(B) \)

\(\color{red}{^{\forall}x\in A}\)とする。
\(f(A)\subset B\)であるので、\(f(x)\in B\)となる。
ここで\(f^{-1}(B):=\){\(a\in A:f(a)\in B\)}なので\(\color{red}{x\in f^{-1}(B)}\)である。

赤線で書いた部分より\(A\subset f^{-1}(B)\)が示された。

\(f^{-1}(B)\subset A\)

今度は\(\color{red}{^{\forall}x \in f^{-1}(B)}\)とする。
ここで\(f^{-1}(B):=\){\(a\in A:f(a)\in B\)}なので\(f(x)\in B\)となる。
これより直ちに\(\color{red}{x\in A}\)が成立する。

赤線で書いた部分より\(f^{-1}(B)\subset A\)が示された。

\([B”\subset B’ \subset B]\Rightarrow [f^{-1}(B”)\subset f^{-1}(B’) \subset f^{-1}(B)]\)

この命題は部分集合の逆像は部分集合である、というもので当たり前のように感じますが、数学では厳密性を重要視するのでしっかり確認する必要があります。
逆に言えば、厳密な証明こそ数学の醍醐味と言えるでしょう。

証明

1つ目の”(\subset\)”について示すことで(系として)2つ目の”\(\subset\)”も示す方法をとります。

\(f^{-1}(B”)\subset f^{-1}(B’)\)

\(\color{red}{^{\forall} x\in f^{-1}(B”)}\)とする。
このとき、定義より\(f(x)\in B”\)となり、\(B”\subset B’\)より\(f(x)\in B’\)とわかる。
(一気に書くと\(f(x)\in B”\subset B’\)ということ)

ここで更に\(f^{-1}(B’):=\){\(a\in A:f(a)\in B’\)}であるので、\(\color{red}{x\in B’}\)が示された。

赤線で書いた部分より\(f^{-1}(B”)\subset f^{-1}(B’)\)が示された。

ここで\(B”\)の代わりに\(B’\)、\(B’\)の代わりに\(B\)を使うと
\(f^{-1}(B’)\subset f^{-1}(B)\)となる。
上で示した命題(\(A=f^{-1}(B)\))より

\(f^{-1}(B’)\subset A\) となる。

\([B’\subset B]\Rightarrow [f(f^{-1}(B’))\subset B’]\)

証明

\(\color{red}{^{\forall}x\in f(f^{-1}(B’))}\)とする。
これより\(\exists a\in f^{-1}(B’)(x=f(a))\)である。
\(f^{-1}(B’):=\){\(\alpha \in A:f(\alpha )\in B’\)}であるので、
[\(a’\in f^{-1}(B’) \Rightarrow f(a’)\in B’\)]が言える。
故に\(f(a)\in B’\)であり、\(f(a)=x\)より\(\color{red}{x\in B’}\)となる。

赤線で書いた部分より、\(f(f^{-1}(B’))\subset B’\)が証明された。

等号が成立しない例

\(f\):R\(\rightarrow\) R,\(x\mapsto x^2\)を考えます。
\(B’:=[-4,1]\)とすると、\(B’\subset\)Rであるので命題の条件は満たしています。
しかし、\(f^{-1}(B’)=[-1,1]\)ですので、\(f(f^{-1}(B’))=[0,1]\)≠\(B’\)となります。

この場合でも\(f(f^{-1}(B’))\subset B’\)が成立しています。

\(f\)が全射なら等号成立

\(f(f^{-1}(B’))\subset B’\)は示したので、\(B’\subset f(f^{-1}(B’))\)を示します。

\(B’\subset f(f^{-1}(B’))

\(\color{red}{^{\forall}b\in B’}\)とする。
\(f\)は全射なので\(\exists a\in A(f(a)=b)\)となる。これより\(a\in f^{-1}(B’)\)もわかる。
これを\(f\)で送れば\(f(a)=\color{red}{b\in f^{-1}(B’)}\)となる。

赤線で示した部分より\(B’\subset f(f^{-1}(B’))\)が証明された。

等号が成立しない例で挙げた\(f:\)R\(\rightarrow\)R,\(x\mapsto x^2\)を無理やり全射に変えてみると等号が成立します。
値域を[0,∞)に制限すると\(f\)は全射になります。

等号不成立の例では\(B’\)の元として負の数を入れることで不成立となりますが、逆に言えば非負数のみで構成されている\(B’\)を選べば等号成立となります。これは負の数が\(f\)の値域にないことに由来します。つまり、次が言えます。

[\(f\)が全射]\(\Leftrightarrow\)[\((B’\subset B)\Rightarrow (B’=f(f^{-1}(B’)))\)]

[\(f\)が全射]\(\Rightarrow\)[\((B’\subset B)\Rightarrow (B’=f(f^{-1}(B’)))\)]は上で示したので[\(f\)が全射]\(\Leftarrow\)[\((B’\subset B)\Rightarrow (B’=f(f^{-1}(B’)))\)]を示します。

証明

\(B’=B\)とすると、上で証明した命題より\(f^{-1}(B)=A\)となる。
この状況でも仮定は成立、つまり\(B=f(f^{-1}(B))=f(A)\)が成り立つ。
\(B=f(A)\)より\(f\)は全射である。

まとめ

今回は逆像に関する命題をいくつか証明しました。
1つだけで完結するようなものより、複数の既知の命題を使った証明が多い印象でしたが、それも数学の面白味といえると思います。

次回からは写像を一旦離れて直積について書いていきたいと思います。


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