今回からは集合論で培ってきた知識をもとに数の構成をしていきます。
具体的には、自然数の集合\(\mathbb{N}\)を仮定した上で整数\(\mathbb{Z}\)を構成し、そこから更に有理数\(\mathbb{Q}\)、実数\(\mathbb{R}\)と順番に作っていきます。
自然数\(\mathbb{N}\)
このブログでは自然数\(\mathbb{N}\)が本当に存在し、更にその上でどのような性質(例えば和と積がどのように定義されているか)を持っているのかについては深く掘り下げないことにします。ただ、自然数に0を含めるという点だけ注意してください。
\(\mathbb{N}\):={0,1,2,3,・・・}
整数\(\mathbb{Z}\)
整数\(\mathbb{Z}\)の構成をしていきます。まずイメージを掴んだうえで実際の定義を見ていきます。
構成のイメージ
整数はなじみ深い人が多いかと思いますが、今回は自然数のみから整数を構成しないといけません。そこで次のようなことを考えます。
全ての整数は2つの自然数の差で求めることができます。例えば、5-4=1,2-8=-6等です。
これを、下の定義では(5,4)、(2,8)等と書いています。わざわざ順序対で(5,4)と書く理由は、負の数が存在しない自然数で整数を構成しないといけないからです。
引き算は自然数の中で考えるとき、2-8のように大きい数で小さい数から引くようなものを考えると自然数の中で答えを探すことができないです。つまり、そもそも引き算を自体が自然数に対して閉じてないので引き算を自然数で考えるのに困難があることが分かります。この困難を避けるために順序対で書いています。
また1-0=5-4=1ですので、整数1つに対して自然数2つが1対だけあるわけではないことに注意しましょう。整数を構成するためには、同じ数は同じものとして捉えないといけません。(1,0)と(5,4)は違う表記ですので同じものとして捉えれる条件を与えないといけません。(実際には商集合で定義します。)
更にこの同じものを示す条件ですが、引き算を考えたくないので1-0=5-4等と書くとまた厄介です。
そこで-0と-4を移項して1+4=5+0となるとき、同じ数だと定義すればよくなります。
定義
では実際にここから自然数\(\mathbb{N}\)をもとに整数\(\mathbb{Z}\)を定義します。
これは直積集合\(\mathbb{N}^2\)を同値関係~で割った商集合として定義されています。
この同値関係~の定義を下に書きます。
上のイメージにあてはめて考えてみると、(\(m,n\))は\(m-n\)として捉えています。
\(m-n\)\(=\)\(k-l\)を\((m,n)\sim (k,l)\)で定義しています\((\mathbb{N}\)での=と一致するかはまだ明らかではないので別の記号を使っています)。
更に差を考えたくないので、\(m-n=k-l\)の代わりに\(-n,-l\)を移項して\(m+l=n+k\)とすることで和のみで定義ができています。
ではまず、この二項関係~が同値関係であることを示します。
同値関係であること
同値関係は反射性・対称性・推移性が満たされるときに言えたので、それぞれ確認します。
反射性
\(\color{red}{^{\forall}m,n\in\mathbb{N}\mbox{に対して}}\)
\(m+n=m+n\)であるので、 \(\color{red}{(m,n)\sim (m,n)}\)
この赤文字部分は反射性の定義となっている。
対称性
\(\color{red}{^{\forall}m,n,k,l\in\mathbb{N}\mbox{に対して}\\
(m,n)\sim (k,l)\mbox{と仮定する。}}\)
このとき、定義より\(m+l=n+k\)であるので、\(k+n=l+m\)でもある。
これを更に定義に従って書き直すと、\(\color{red}{(k,l)\sim (m,n)}\)である。
この赤文字部分が対称性の定義となっている。
推移性
\(\color{red}{^{\forall}m,n,m’,n’,m”,n”\in\mathbb{N}\mbox{に対して}\\
[(m,n)\sim (m’,n’)\land(m’,n’)\sim (m”,n”)]\\\mbox{と仮定する。}}\)
仮定で現れた2つの二項関係~をそれぞれ定義にあてはめることで、\(m+n’=n+m’\)かつ\(m’+n”=n’+m”\)が分かる。この2式の両辺をそれぞれ足し合わせると
\(m+m’+n’+n”=n+n’+m’+m”\)となり、\(m+n”=n+m”\)が分かる。
定義にあてはめて\(\color{red}{(m,n)\sim (m”,n”)}\)となる。
この赤文字部分が推移性の定義となっている。
商集合で定義した理由
イメージの所で言及したように、商集合で定義したのは(5,7),(0,2)のように同じ整数を表す順序対が一意的でないためです。商集合は同値関係なものは1つの元として捉えることができるので、この定義で良いことが分かります。
まとめ
今回は自然数\(\mathbb{N}\)から整数\(\mathbb{Z}\)を定義しました。
今回の定義(直積、商集合、同値関係、順序対等)は今まで定義してきたもののみを使っています。
集合論では、もし議論に追いつけなくなったらいつでも定義に立ち返ることが大事です。
次回は更に整数上の和と積を定義していきます。ありがとうございました。
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