前回、整数の定義について紹介しました。今回は整数上での和(と差)と積の定義の紹介とその詳細について触れていきます。
well-definedについて、また何故その確認をするのかも詳しく説明していて、大学数学の疑問を解決できる記事になってます。
復習
まず、定義を再度確かめていきます。詳細は前回説明していますのでそこを参照していただくようお願いします。
ここで記号”~”は次の同値関係を指すものでした。
和と積
では、上の定義をもとに和と積の定義をしていきます。
イメージ
上の定義は少しわかり辛いかと思います。
ここでは、まず何故上の定義が「和と積」になるのかを考えていきたいと思います。
確認
さて、\(x,y\in\mathbb{Z}\)をとって上の定義が和と積になるか考えてみましょう。
整数の構成としての定義(とそのイメージ)を思い出すと、\(x,y\in\mathbb{Z}\)は
「\(x=m-n,y=k-l\) な\(m,n,k,l\in \mathbb{N}\)が存在すること」と書けました。
\(\mathbb{Z}\)での和は\(x+y\)、積は\(x\times y=xy\)と書けるのですが、この式を\(m,n,k,l\)について書き直すと次のようになります。
\(x+y=(m-n)+(k-l)=(m+k)-(n+l)\cdots (*)\)
更に\(\mathbb{Z}\)の定義に従って考えると
\(x\oplus y=(m,n)\oplus (k,l)=(m+k,n+l)\)
これは(m+k)-(n+l)と同じと考えれるので、\((*)\)と一致します。
積についても、同じように定義に則って考えると
\(xy=(m-n)(k-l)=(mk+nl)-(ml+nk)\sim (mk+nl,ml+nk)\)
となります。(ここで\(\sim\)は整数上での同値関係を示しています)
以上でこの定義で和と積が示されることが分かりました。
well-definedであること
さて、今度は数学的にこの和と積がwell-defined(整合的な定義)であることを示していきます。
well-definedであることを確認する理由
これは、商集合で考えているために必要な作業となります。商集合上では同値類を考えていますが、同値類は「同じ」(同値関係)な元の集合となります。この「同じ」ものでも、もとの集合(ここでは\(\mathbb{N}^2\))上で別の元をとることができるわけです。この別の元でも「同じ」なら演算(この場合和と積)で送った先でも同値類の意味で「同じ」となるかを確認しないといけません。
つまり、別の元でも「同じ」と定義されてしまうので、別の元で考えた和と積が「同じ」にならないといけないというわけです。
証明
では実際に上で定義された和と積がwell-definedであることを示していきます。
和
\(\color{red}{(m,n)\sim(m’,n’),(k,l)\sim(k’,l’)\mbox{を仮定する。}}\)
\(\sim\)の定義より、この仮定は\(m+n’=m’+n,k+l’=k’+l\)と書き直せる。
両辺を足し合わせると
\(m+k+n’+l’=n+l+m’+k’\\\Leftrightarrow (m+k)+(n’+l’)=(n+l)+(m’+k’)\)
となる。
最後の等式は同値関係\(\sim\)に従って書き直すと\((m+k,n+l)\sim(m’+k’,n’+l’)\)
これは和の定義に従って
\(\color{red}{(m,n)\oplus(k,l)\sim(m’,k’)\oplus(k’,l’)}\)
と書ける。
赤字部分がwell-definedであることを示している。
積
\(\color{red}{(m,n)\sim(m’,n’),(k,l)\sim(k’,l’)\mbox{を仮定する。}}\)
\(\sim\)の定義に従ってこの仮定は\(m+n’=m’+n,k+l’=k’+l\)と書き直せる。これより、
\((m+n’)(k+k’)+(m+m’)(k+l’)+(n+m’)(l+k’)\\=(n+m’)(k+k’)+(m+m’)(l+k’)+(m+n’)(k+l’)\)
である。両辺を展開すると
\(mk+mk’+n’k+n’k’+mk+ml’+m’k+m’l’\\+nl+nk’+m’l+m’k’\\=nk+nk’+m’k+m’k’+ml+mk’+m’l+m’k’\\+mk+ml’+n’k+n’l’\)
ここで両辺から共通する項(\(mk,mk’,n’k,ml’,m’k,nk’,m’l,m’k’\))を消去すると
\((mk+nl)+(m’l’+n’k’)=(ml+nk)+(m’k’+n’l’)\)となり、同値関係\(\sim\)に従って書き直すと
\((mk+nl,ml+nk)\sim(m’k’+n’l’,m’l’+n’k’)\)である。
これは積の定義より\(\color{red}{(m,n)\otimes(k,l)\sim(m’,n’)\otimes(k’,l’)}\)。
赤字部分がwell-definedであることを示している。
注意点
以上でwell-definedを示せたことになります。ただしここで注意点があります。
和と積の性質を示す際に、足し合わせたり、積をとる行為をしていることが分かるかと思います。
これはwell-definedであることも分かってない\(\mathbb{Z}\)上の演算に対して行っているのではなく、既にwell-definedであることがわかっている(というより、商集合を考えてないのでwell-definedであるか確認する必要のない)\(\mathbb{N}\)上での演算を考えています。
なので、和と積を示す際に使っている「和と積」は別のものであるということに注意しましょう。
まとめ
今回は整数上での和と積の定義及びそれらがwell-definedであることの確認をしていきました。
商集合(商空間や商位相なども含む)での演算や写像を考えるとき、well-definedであるかどうかを確認する必要があります。最初に躓きやすい部分ではあるのですが、厳密な数学を議論するためには欠かせないものですので、是非自分のものにできたらいいと思います。
今回もありがとうございました!
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