前回までで整数の定義とその上での演算(和と積)を紹介しました。
本来ならこの整数\(\mathbb{Z}\)が満たす性質(例えば和の交換関係等)を紹介して、一つ一つ証明しようと予定していたのですが、少し駆け足に進めていきたいと思います。
今回は有理数\(\mathbb{Q}\)の定義をしていきます。有理数は、簡単に言えば「分数」です。例としては、
\(-\frac{1}{2},\frac{2}{7},0,4,\cdots\)
等です。
これらを整数\(\mathbb{Z}\)と自然数\(\mathbb{N}\)およびその上での演算(和と積)から定義していきたいと思います。厳密な定義のためには、整数上の和と積が自然数上でも成立することをまず示す必要がありますが、省略します。
有理数\(\mathbb{Q}\)のイメージ
まずいきなり定義するのではなく、どのように有理数を構成していくのかを大雑把に説明したうえで考えてみたいと思います。有理数は全て分数の形です(1等の整数も1=\(\frac{2}{1}\)等と変換可能)。ですので、
\(\frac{\mbox{整数}}{\mbox{整数}}\)
の形で定義していきます。ただし
①分母に0はおけないことと
②整数はマイナスも含むこと
より、分母は自然数(0を含む流儀なら0を除いた自然数)からとってくることとします。
更に、分子と分母に同じ数をかけても、同じ因数で割っても同じである必要があるので、そのようなとき「同じ」となる関係を定義します。つまり、\(\frac{2}{4}=\frac{1}{2}\)を満たすような「=」を定義するというわけです。
有理数\(\mathbb{Q}\)の定義
それでは、実際に定義を書いていきます。まずは、整数\(\mathbb{Z}\)と自然数\(\mathbb{N}\)の直積集合\(\mathbb{Z}\times\mathbb{N}\)上での同値関係を定義しておきます。
イメージとしては、\((m,n)=\frac{m}{n}\)と考えておくとやりやすいです。この考え方だと上の同値関係では、
\(\frac{m}{n}=\frac{k}{l}\)は\(mk=nl\)と同じ
というある意味当たり前のことを主張していることになります。
さて次に実際にこの同値関係を用いて、有理数\(\mathbb{Q}\)の定義を書きます。
もとの集合\(\mathbb{Z}\times\mathbb{N}\)を同値関係\(\sim\)で割っているだけです。同値関係は、「同じ」ことの定義でしたので、同じものを同じとみようという商集合を考えていることになります。
和と積
さて有理数\(\mathbb{Q}\)が定義で来たところで、和と積についても考えていきます。差と商についても考えることはできますが、\(x\)で引く代わりに\(-x\)を足す、\(x\)で割るかわりに\(\frac{1}{x}\)をかけること(ただし\(x\neq 0\))で代用できます。
ここで\(\oplus,\otimes\)は有理数\(\mathbb{Q}\)上での和と積を表します。整数上での和と積は+、・(×は省略)で示しています。区別するためにわざわざ丸付きの記号にしました。
ここでのイメージは、
和:\(\frac{m}{n}+\frac{k}{l}=\frac{ml+nk}{nl}\)
積:\(\frac{m}{n}\times\frac{k}{l}=\frac{mk}{nl}\)
となり、自然なものであることが確認できると思います。
well-definedかどうか
さて、この和と積は商集合\(\mathbb{Z}\times\mathbb{N}/\sim\)上で定義されている演算なので、well-definedかどうか確かめる必要があります。駆け足ではありますが、これだけは確認して進みたいと思います。
和
\(\color{red}{(m,n)\sim(m’,n’),(k,l)\sim(k’,l’)\mbox{を仮定する。}}\)
同値関係の定義より、\(mn’=m’n,kl’=k’l\)。
1つ目の式に\(ll’\),2つ目の式に\(nn’\)をかけて両辺を足し合わせると
\(mn’ll’+kl’nn’=m’nll’+k’lnn’\\
\Leftrightarrow \{(ml)+(nk)\}(n’l’)=\{(m’l’)+(n’k’)\}(nl)\)
この式に同値関係の定義を当てはめると
\((ml+nk,nl)\sim(m’l’+n’k’,n’l’)\)
両辺に和\(\oplus\)の定義をそれぞれ使って
\(\color{red}{(m,n)\oplus(k,l)\sim(m’,n’)\oplus(k’,l’)}\)
赤字部分を見ると、和\(\oplus\)がwell-definedであるとわかる。
積
\(\color{red}{(m,n)\sim(m’,n’),(k,l)\sim(k’,l’)\mbox{を仮定する。}}\)
同値関係の定義より、\(mn’=m’n,kl’=k’l\)。
両辺をかけあわせて\((mk)(n’l’)=(m’k’)(nl)\)。同値関係\(\sim\)の定義より、
\((mk,nl)\sim(m’k’,n’l’)\)
更に積\(\oplus\)の定義を両辺にあてはめて
\(\color{red}{(m,n)\otimes(k,l)\sim(m’,n’)\otimes(k’,l’)}\)
赤字部分を見ると、積\(\otimes\)がwell-definedであるとわかる。
まとめ
今回は有理数\(\mathbb{Q}\)の定義とその上での演算(和と積)を定義しました。
\(\mathbb{Q}\)の定義にも商集合が使われているので、その上での演算がwell-definedであることを示しました。これ以外にも、順序関係を定義して違う元を比べることができたり、和と積(積は0以外の)の逆元が存在することを示すこともできます。
次回は実数\(\mathbb{R}\)の構成の準備をしていきます。数列の知識を前提とします。よろしくお願いします。
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