こんにちは!マシューの数理理論部屋です。
今回は前回に引き続き写像の定義をしていきます。
写像は集合同士の関係を決めるものでした。集合論においてのみではなく、数学全体において写像はとても重要な概念となります。今回もよろしくお願いします。
合成写像
高校で合成関数は習ったと思います。それをただ単に写像まで拡張した概念だと考えてもらえば合成写像はとりあえずOKです。
\(f:A\rightarrow B,x\mapsto f(x) \)と\(g:B\rightarrow C,y\mapsto g(y)\)に対して、\(g\circ f:A\rightarrow C,g(f(x))\)を\(g\)と\(f\)の合成写像と呼びます。
注意点は、\(\circ\)の右側から写像を作用させるという点です。\(g\circ f(x)=g(f(x))\)と覚えればやりやすいかと思います。
合成写像が写像であること
“写像”という名前がついている以上明らかに写像であることが結果としてあるのだなと思われますね。ただ数学ではどこまでも厳密性を求めますので、本当に写像となっていることを確かめる必要があります。
まずは写像の定義を確認しましょう。\(f\)や\(g\)は合成写像の構成元として使いたいので、\(h\)が写像であることの定義を書きます。
\(h:A\rightarrow C,x\mapsto h(x)\)が写像である\(\overset{def}{\Leftrightarrow}[ ^{\forall} x\in A \Rightarrow \exists ! z\in C (z=h(x))]\)・・・(1)
ここで\(\exists !\)はただ一つ存在する、という意味です。
ではこの定義を合成写像が満たしているかを確認します。
まず、定義上\(f,g\)がともに写像であることが分かっています。
これより\([^{\forall} x\in A\Rightarrow \exists ! y\in B (y=f(x))]\land [^{\forall} y\in B\Rightarrow \exists ! z\in C(z=g(y))]\)であるので、(1つ目の論理式の\(y\))\(=\)(2つ目の論理式の\(y\))とすることで\(y=f(x)\)とすることができ、
\(^{\forall} x\in A \Rightarrow \exists ! z\in C (g(f(x))=z)\)
が分かります。\(g(f(x))=g\circ f(x)\)ですので、合成写像\(g\circ f\)は定義(1)を満たすことが示されました。
逆像
逆関数を高校数学で習ったかと思います。逆像は写像を引き戻した集合として考えることができます。
写像\(f:A\rightarrow B\)の逆像\(f^{-1}\)の定義は(2)のように書くことができます。
\(y\in B\)に対して\(f^{-1}(y)=\){\(x\in A:f(x)=y\)}・・・(2)
注意点は、集合として定義されていることです。例えば、\(f^{-1}\circ f(x)=x\)は成立せず、\(x\in f^{-1}\circ f(x)\)であるということです。ただ慣習的に議論に問題がない場合、逆像の元を逆像と呼ぶことも多いです。
例
逆像の例を書きます。
- \(f(x)=2x\)の逆像は\(f^{-1}(x)=x/2\)
- \(f(x)=x^2\)の逆像は\(f^{-1}(x)=\pm \sqrt{x}\)
これらの例が(2)を満たしていることはすぐにわかると思います。
逆写像
逆像の定義(2)を見てみると写像の逆という意味なのに何故逆写像と呼ばれないか、という疑問が残りますし、わざと分かりづらく書かれている印象さえ感じます。
しかし集合論も含めて数学全体はわざと分かりづらくすることはありません。正確性のためにややこしくなっているだけです。
例に挙げた\(f(x)=x^2\)を見てみると何故(2)のように定義しているのかがわかります。例えば、\(f(x)=1\)を満たすような\(x\)を求めるとき、\(1\)の\(f\)による逆像は{\(1,-1\)}ですので、\(x=\pm 1\)が答えだとわかります。逆像全体を一気に表すために集合の定義となっているわけです。
逆像は行先が集合という意味では1つですが、集合の元という考え方では行先が1つではありません。更に上の例で考えると、\(f:\)R\(\rightarrow\)R,\(x\mapsto x^2\)の場合、\(-1\in\)Rの逆像は存在しません。つまり、逆像は写像とみなすことはできないということです。
そこで全ての逆像(つまり、任意の値域の元に対する逆像)が元を必ず1つ持つようなとき、特に逆写像と呼びます。逆写像に関しては逆像のように集合ではなく、元に対応させます。定義を書くと
\(y\in B\)に対して\(f^{-1}(y)=x(f(x)=y)\)
となります。
まとめ
今回は合成写像と逆像について紹介しました。とりあえず写像の定義は今回で終わりとなり、次回からは単射や全射、合成写像、逆像の性質について命題をいくつか証明していきたいと思います。
写像に入ってくるとやっと集合論らしさが出てきてだんだんと楽しくなって来るのではないかと思います。
挙げてほしいトピックや質問等ありましたらコメント欄まで書いていただけると嬉しいです。
今回もありがとうございました。
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