こんにちは!マシューの数理理論部屋です。
この「SFの世界を計算してみる」シリーズももう4回目となりました。まずは何をしているかから振り返りたいと思います。
振り返り
「機動戦士ガンダム\(\overset{ユニコーン}{UC}\)」という作品でコロニー落とし作戦という、月の周りをまわっている居住地(コロニー)を地球に落とすシーンがあります。このとき、地球の自転が1時間ごとに1.2秒早まったとの記述があります。ここからコロニーの重さを計算し、コロニー落とし作戦の威力を計算していきます。
計算手順は以下の通りです。
- 地球の慣性モーメントを計算する
- 地球とコロニーの衝突前後の角運動量を計算する
- 運動量保存則の式を立てて計算する
前回までで手順1を終わらせました。まだ2つも残ってますね笑。
今回は手順2の角運動量計算をしたいと思います。
計算
それでは計算にうつっていきます。まずは用語の説明からしていきます。
角運動量とは
運動量は高校物理学で習ったかと思います。運動量は物が動く勢いとして捉えることができますが、角運動量は物が回転する勢いとして捉えることができます。角運動量\(\overset{\rightarrow}{L}\)の定義式は位置\(\overset{\rightarrow}{r}\)と運動量\(\overset{\rightarrow}{p}\)を使って(1)のようになります。
\(\overset{\rightarrow}{L}\colon =\overset{\rightarrow}{r} \times \overset{\rightarrow}{p}\)・・・(1)
ここで\(\times \)は外積(ベクトル積)です。
今回は(コロニーの地球周りでの公転軌道軸と地球の自転軸が一致していると仮定しているので)この(1)式の大きさだけをみます。
任意の3次元ベクトル\(\overset{\rightarrow}{A},\overset{\rightarrow}{B}\)に対して外積\(\overset{\rightarrow}{A}\times \overset{\rightarrow}{B}\)の大きさは、\(\overset{\rightarrow}{A}\)と\(\overset{\rightarrow}{B}\)の角度を\(\theta\)とすると(2)式で表すことができます。
\(|\overset{\rightarrow}{A} \times \overset{\rightarrow}{B}|=|\overset{\rightarrow}{A}||\overset{\rightarrow}{B}| \sin \theta \)・・・(2)
内積の場合\(\cos \theta\)で表せるのと似ていますね。
またこの角運動量の大きさは慣性モーメント\(I\)と次のような関係があります。
\(|\overset{\rightarrow}{L} |=I\omega \)・・・(3)
ここで\(\omega\)は角速度で、周期\(T\)に対して\(\omega =2\pi /T \)と書けます。
地球の角運動量
前回求めた地球の慣性モーメントは\(8\times 10^{31} [kg・km^2]\)でしたので、これを(3)式に代入します。1回目で書いたように地球の自転周期(恒星周期)は23時間56分でしたので(3)式を計算すると
\(|\overset{\rightarrow}{L}_{地球・前} |=8\times 10^{31} \times \displaystyle \frac{2\pi}{(\frac{23+\frac{56}{60}}{24})}=5.04\times 10^{32}[kg・km^2 /d]\)
となります。ここで[d]は日で、24時間を一単位とする物理量です。
コロニーの角運動量
コロニーは月の周回軌道を公転している物体です。ここでは地球からの距離が均一で月と地球の平均距離と同じとみなして計算します。
(2)に従って計算していきます。\(\overset{\rightarrow}{r}\)は地球の中心からコロニーまでの変位、\(\overset{\rightarrow}{p}\)はコロニーの運動量ですので、完全な等速円運動をしていると仮定して\(\theta =\pi /2\)とできます。
また、\(|\overset{\rightarrow}{r} |\)は月と地球の距離、\(|\overset{\rightarrow}{p} |=m|\overset{\rightarrow}{v}|\)は月の公転周期(恒星周期)が27.3[d]であることを使います。
更にコロニーの重さは\(m[kg]\)とします。
これらを全てまとめると
\(|\overset{\rightarrow}{L}_{コロニー・前} | =|\overset{\rightarrow}{r} |\times m \times \displaystyle \frac{2\pi |\overset{\rightarrow}{r} |}{27.3} \sin (\frac{\pi}{2})=3.4\times 10^{10} m[kg・km^2 /d]\)
となります。
衝突後の角運動量
衝突後に起こる変化は次の3つです。
- 地球の自転が1時間ごとに1.2秒早くなる
- コロニーの高さ(つまり回転軸からの距離)が地球の半径に一致する
- コロニーの周期が地球の自転に一致する
衝突後は2つとも同じ角速度で動くのですが、角運動量を求める式を計算したので個別に計算して後で足すという方式をとります。
それぞれ同様に計算すると
\(|\overset{\rightarrow}{L}_{地球・後} |=8\times 10^{31} \times \displaystyle \frac{2\pi}{(\frac{23+\frac{56}{60} \color{red}{-\frac{28.8}{3600}}}{24})}=5.24\times10^{32}[kg・km^2 /d]\)
地球の角運動量の計算は1時間に1.2秒なので1日で28.8秒早くなることを使っています。
質量(とその分布)は変わらないのに対し角速度が大きくなっているので角運動量も大きくなっていることが分かります。
\(|\overset{\rightarrow}{L}_{コロニー・後}|=\displaystyle \frac{\color{red}{|\overset{\rightarrow}{r}|^2} 2\pi}{\frac{23+\frac{56}{60}+\frac{28.8}{3600}}{24}} \times m =40300m[kg・km^2 /d]\)
コロニーの場合、軌道半径の減りの寄与が角速度の増加よりも圧倒的に大きくて角運動量の大幅な減少が計算できました。
まとめ
今回は計算手順2の角運動量計算をしました。
結果を見ると、コロニーの角運動量が減り、地球の角運動量が増えたことが分かりました。
次回はこの「SFの世界を計算してみる」シリーズ最終回で全ての計算を終え、更に考察をしていきます。
今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました!挙げてほしいトピックや質問等ありましたらコメント欄まで書いていただけると幸いです。
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